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最上 〜MOGAMI
甲州石班沢(こうしゅうかじかざわ)改稿
2008-04-20-Sun  CATEGORY: 甲州石班沢

 
 岸の端(はな)はもう川だ。 
 草鞋を隠しにしまって足場を決めた。
 朝ぼらけの富士がただちに水面(みなも)に展けている。
 それから嵩は豊かになり、波が浦に寄せて返ると残さず濁った。
 澪つくし(みおつくし)に鷺(さぎ)が飛びそうにいる。 
 漁り(すなどり)の豊穣なのを報せる瑞(しるし)だ。
 翁はときめいた。
 四尋半の網を投げる。 
 木綿糸はずっと重くなり、力が入ると襟首の汚れた皮に筋の繰り返しが縒って、口の端には塩が出た。 
 鷺が飛んだ。
 嘴(くちばし)に鮎(あゆ)が大きい。
 投網を繰り寄せる。どうして口惜しかった。
 と、すぐ立って支度をはじめた坊の黒が勝った目を翁は打ち見た。
 もういっぱいにたたえられていた。


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