岸の端(はな)はもう川だ。
草鞋を隠しにしまって足場を決めた。
朝ぼらけの富士がただちに水面(みなも)に展けている。
それから嵩は豊かになり、波が浦に寄せて返ると残さず濁った。
澪つくし(みおつくし)に鷺(さぎ)が飛びそうにいる。
漁り(すなどり)の豊穣なのを報せる瑞(しるし)だ。
翁はときめいた。
四尋半の網を投げる。
木綿糸はずっと重くなり、力が入ると襟首の汚れた皮に筋の繰り返しが縒って、口の端には塩が出た。
鷺が飛んだ。
嘴(くちばし)に鮎(あゆ)が大きい。
投網を繰り寄せる。どうして口惜しかった。
と、すぐ立って支度をはじめた坊の黒が勝った目を翁は打ち見た。
もういっぱいにたたえられていた。
スポンサーサイト
| ホーム |